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オーセンティシティとは

2024/05/20

グラミー賞やYouTubeアウォーズを受賞するなど、高い評価を受けるミュージックビデオを連発するアメリカのインディーズロックバンド「OK  Go」のメンバーであるダミアン・クラッシュは自身のビデオをつくるとき、ライトやカメラ用台車の映り込みを指示するそう。そうした指示は、カメラクルーには不評なんだそう。そんなものがビデオに映り込んでしまうのは素人のやる失敗だからですが、デジタル技術の進化によって現実とCGの境界線がますますぼやけているなか、人々に注目してもらうために、「これは現実なので」ということを伝えなければいけないのだとダミアンは話します。

私はオーセンティシティという概念に出会うまで、つくり込んでいない動画の事を「素人の手作り感のある」というやや後ろ向きな表現をしていた。しかし、そうした動画がテクニカルなクオリティが高い動画よりも多く視聴されたという経験を幾度となくいてきました。

あるオフィス家具メーカーが多額の予算を投じ、外注して制作した高機能ビジネスチェアの動画をみました。人間工学にもとずいた設計と、それを支える素材や機構といった高いスペックを伝えるためにCGを駆使し、モデルも起用して伝えようとしましたが、そのメーカーのYouTubeチャンネルの登録者数の割合からは、期待していたほどに再生されなかったようです。それに対し、その製品を販売する商社の営業社員が、自分でその椅子を使って座り心地などのレビューをした動画は、同社のYouTubeチャンネル登録者数の割合からすると、メーカーの動画よりも再生数は多く、取引先や新規客からの問い合わせ獲得・販売につながったということがあったようです。

観光でも似たような例があり、ある自治体がプロに依頼して制作した四季折々の美味しそうな食事、お祭り、観光名所を4Kカメラやドローンなどで撮影して制作したシティプロモーション動画を、Facebookにアップしても三桁前半くらいしか再生されなかったのに対し地元の知る人ぞ知るおにぎり屋のおばあちゃんのおにぎりができる様子を、スマホの動画アプリで撮影した動画を同じくFacebookにアップしたところフォロワーにシェアされ、1万回以上再生されたこともあります。撮影対象は異なるとはいえテクニカルなクオリティよりはオーセンティシティのある動画の方が再生数が多いという例になりました。

また知人のAさんは、日本の食パンがいかに柔らかくて美味しいかを、自宅の一室で照明機材も使わずにワンカットで撮影した動画をアップしたところ170万回以上再生されていました。当時は自身のYouTubeチャンネルの登録者数は少なく、シェアされ続けてこの再生数にいたったのです。製パン、製菓企業のYouTubeチャンネルを見ても、広告を使わずにこれだけの再生数のある動画はなかなかお目にかかることはありません。

これは単なるビギナーズラックではなさそうですよね。2020年当時、一般ユーザーが撮影したInstagramの写真や動画を企業が購入できるプラットフォーム「Snapmart」の代表・岡陽介氏に伺ったはなしでは、オーセンティシティが求められるのは動画だけではない事実を知りました。ある若年層向けアプリを運営する企業が、アプリダウンロードのためのバナー広告をSNSで配信するために、Snapmartで画像を数点購入して配信したところ、もっともクリックされた画像は、修学旅行の途中に仲のいいクラスメイトがワーッと集まって撮影した素人感丸出しのものでした。一方プロが撮影した画像の方がクリック率が低かったことがありました。岡氏はこうしたSnapmartで販売される傾向の高い画像のことを「ユーザーとの距離感が近い・共感できるクリエイティブ」と表現しましたが、コレもオーセンティシティが求められているあらわれといえそうですよね。

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